予告編
ISSEI 画伯と伊勢監督の二人が、
深海へ潜るように心を通わせている。
片耳がちぎれた猫の涙は、
したたる絵の具となり、
ジェントルモンスターの絵筆と戯れた。
切実に生まれつづける絵々は、
唸り声と掻き鳴らされたギターのまにまに
うっとり身を委ねている。
「私たちの人生っていったいなんだろう」
これほどまでに雑音のないドキュメンタリーを
見たことがない。
− 内田也哉子 (文筆家)
西村 一成 Issei Nishimura
1978年生まれ、愛知県在住。西村一成は甥っ子や姪っ子から「かいじゅう」と呼ばれている。独学で絵を描き始めたのは20歳の頃。自宅でときに唸り声をあげながら、キャンバスに絵の具を塗りたくり、独白記ごとく日々絵を描く。シェル美術賞、FACE損保ジャパン日本興亜美術賞ほか多数入賞・入選。
描くことについて / 西村一成
僕は日々ひたすら絵を描きつづけている。呼吸し、食べ、排泄し、眠るのと同じようにだ。線は僕の肉体の延長としてうねり、色は僕の精神の明滅を強烈に映し出す。それは世界との直感的な交錯によって瞬発的に繰り出される。描きあげた末に僕は疲れ果てて倒れ込む。そのとき絵は、僕と不可分な、一人の人間のナマの姿だ。しかし決して個人的な表現として完結はしない。人は抗うことのできない天変地異の世界を生き抜いているが、いかに時空的に隔たっていようとも、その波動は今ここに伝わってくる。僕にできることといえば、その波を感受し、祈ることしかない。だから僕の絵の中に彫り出される図像は、祈らずにいられない根源的衝動が形づくる現実だ。どんな状況であれ、人はこの世界を必要としている。僕も日々ひたすら世界を感じつづけている。僕自身と、そして誰かの生(せい)のために。
出演
西村 一成
西村 純子
ちくら
音楽
ロケット・マツ(パスカルズ)
編集
太田 一生
監督・撮影
伊勢 朋矢
制作・配給
Planetafilm
画家・西村一成 一年の記録
初めて会ったとき、一成さんは「午前中なら調子がいいから、大丈夫かもしれない」と言った。夕方は苦手らしい。不安になるという。だから最初は「午前中の 1 時間くらいだけ撮影してみましょうか。無理して絵を描かなくてもいいですよ」そんな約束をして別れた。
撮影最初の日、一成さんは絵を描かなかった。ただただお互いの好きな音楽の話をした。僕(伊勢朋矢)も音楽は好きだが、一成さんはさらにマニアックだった。その日は気に入ったCDを 1 枚借りて帰った。帰りがけ、一成さんが「次はいつ来るの ?」と言ってくれたことがうれしかった。2 週間後にまた来る約束をして、その日は帰った。
2週間後。朝カメラを持って訪ねると、一成さんは縁側でタバコを吸っていた。猫のちくら
は、一成さんの側でじっとしながら「なんだコイツ」と、僕の方を見ている。一成さんは ふぅーっとタバコの煙を吐くと立ち上がり、耳栓をしてから、巨大なキャンバスの前に立つ。長い間黙って何かを見つめている。「何が起きるのだろうか ?」僕がカメラを手に緊張していると、突如、一成さんが絵筆を握り立ち上がる。「うぅー」と唸り声を上げながら、アクリル絵の具をたっぷりとつけた筆をキャンバスに叩きつける。目の前になんだかわからない模様が現れた。唸り声とともに、何度も何度も繰り返し絵筆を振るう姿を夢中になって撮影していると......いつのまにかキャンバスには「顔」のようなものが浮かびあがり、その目はじっとこっちを見つめていた。一成さんが家族以外に創作の現場を見せたのは、この日が初めてだったという。
あれから 1 年、僕は西村家に通い続けた。午前中 1 時間だけの撮影は、2 時間 3 時間...と伸びていき、2 泊 3 日で撮影したこともあった。カメラはただただ回り続け、西村一成の日常は 1 本の映画になった。映画のタイトルは甥っ子がつけた一成さんのあだ名にした。
『かいじゅう』
『かいじゅう』上映情報
東京 新宿 K's cinema
2024年6月29日(土)~2024年7月12日(金)
愛知 名古屋 シネマスコーレ
2024年8月10日(土)~2024年8月16日(金)
神奈川 横浜 ジャック&ベティ
2024年9月7日(土)~2024年9月13日(金)
兵庫 神戸 元町映画館
2024年9月21日(土)~2024年9月27日(金)
東京 シネマ・チュプキ・タバタ
2024年10月1日(火)~2024年10月15日(火)
大阪 シアターセブン
2024年11月2日(土)~2024年11月14日(木)
※9月18日(水)1日限定先行上映あり!14:20~16:11
京都 出町座
2024年12月13日(金)~2024年12月26日(木)
※ 上映劇場情報随時更新!